平成28年 1月 法話

見てござる  

迎  春  本年もよろしくお願いいたします。


昨年10月17日、淨教寺本堂平成大修復工事落成慶讃法要を西本願寺大谷光真前門様御親修のもと盛大に執り行わせていただきました。改めて御礼申し上げます。前門様の最近のご著書に写真の『いまを生かされて』があります。その中で、年の初めにぜひ読んでおいていただきたい文章がありましたので引用してご紹介させていただきます。

見守られていることのしあわせ

宇野浩二(明治24年~昭和36年)が書いた童話に『聞く地蔵と聞かぬ地蔵』という作品がありました。比較的有名な話だったと思いますが、次のような話です。
昔、ある貧しい村に旅のお坊さんがやってきます。お坊さんを村人は手厚くもてなしてくれました。お坊さんは御礼に一対の地蔵を村に残しました。一つは何でも願いをかなえてくれる「聞く地蔵」、一つは何も願いをかなえてくれない「聞かぬ地蔵」です。

お坊さんは、「本当は聞かぬ地蔵にお参りする方が良いのだよ」と言い残して村を去っていきました。村人は次々と、聞く地蔵にお願いして願いをかなえ、病気や災難をまぬがれて、豊かになっていきました。しかし、豊かになった村では諍いが絶えなくなっていました。村人たちは働かなくなったうえに、他人と比べてより豊かにと望み、果ては他人の不幸さえ願うようになったのです。
村の混乱ぶりがここまできた時、お坊さんがふたたび村を訪れます。そして「聞かぬ地蔵にお参りしなさい」と繰り返すのです。村人は初めに言われたことの意味にようやく気づいて「聞かぬ地蔵」にお参りするようになったということです。

この短い物語には、人間の願いや幸せと欲望の問題が示されています。人間の欲望には際限がありません。
この物語を思うとき、地蔵ではないですが、阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩のことを述べられた、次の和讃が心に浮かびます。

観音(かんのん)勢至(せいし)もろともに 慈光(じこう)世界(せかい)を照曜(しょうよう)し
  有縁(うえん)を度(ど)してしばらくも 休息(くそく)あることなかりけり (浄土和讃 19)


(阿弥陀如来は、観音菩薩と勢至菩薩とともに、慈悲の光でこの世界を照らしてくださる。そして縁に恵まれ導かれた者を、休むことなく救い続けられているのです。)
誰かが見守ってくれているという感覚のありがたさを思います。「聞かぬ地蔵」のように、阿弥陀如来にお願いをしてもお金が儲かる訳ではありません、病気が治る訳でもないけれど、ただ苦しんでいる自分を、愚かな自分を、どこかで見つめてくれている方がいる。
そういう感覚や視点を持てれば、何も支えのないところで一人苦しんでいるのと、自分が何をしていても見守られていると知っているのでは、日々の生活がまったく違ってきます。もちろん後者の生き方は、本当の孤独ではないということです。                 (『いまを生かされて』より)


傾聴ボランティア僧侶・「金沢豊」さん 
 東日本大震災 被災地からのレポート


東日本大震災から5年を迎えようとしている被災地、被災された方々も全国に散らばり、又被災者各々が悩みを抱えての生活の中で、一人一人と向き合い被災者の心持に耳を傾けて行く日々を過ごしておられる傾聴ボランティア僧侶・「金沢豊」さん(淨教寺所属僧侶)の被災地からのレポートを今月から紹介していきます。

仮設住宅訪問活動誌 〜てんでんこ〜    淨教寺 衆徒  金沢 豊
「てんでんこ」とは、「各々」や「てんでばらばらに」という意味で、東北沿岸部では日常的に使われる言葉である。特に2011年の震災以降、強い揺れを感じたら津波を想定し他人を構わずに各自逃げる事を意味する「津波てんでんこ」が全国的に知られる事となった。「自分の命だけを守る行動をとればいい。めいめいがそう思えば再び会えるから」そういって笑い合う夫婦。一方で、てんでんこに逃げ「なぜ、あの時一緒に逃げなかったのか」と後悔と自責の念が止まない方もいらっしゃる。私たちが続けている訪問活動では、各々(てんでんこ)の思いを大切にしたい。一人ひとりが他者と苦しみの比べ合いをせずに、安心して悲しめる場を提供したいと思う。東日本太平洋沿岸部は広く、被災された方々それぞれが全国に散らばり、てんでんこの状況にあるからだ。
震災から5年を迎えようとするいま、被災した地域、そこにお住いの人々の置かれている状況は、一言で括る事ができない。外部に発信される情報が先細っていく現在だからこそ、これまで聞こえてこなかった声があらわになり、神経を研ぎ澄まして耳を傾けるべき想いがあることを感じている。そんな思いから紹介できる声は、岩手県沿岸南部で出会った人たちとの極めて限定的な話だ。それでも、一人ひとりの声に耳を傾け、思いを寄せることの意義を本コラムから感じとっていただき、てんでんこに想いを寄せていただければ有難く思う。

今年はもっと深く・細やかに被災者の方々のニーズを聴き受けて行きたいと思います。
今年も淨教寺を代表して率先・傾聴活動に取り組んで参ります。
皆様の心からのご支援をお願いいたします。           合 掌