今月の法話     平成31年(2019年) 1月


迎 春  本年もよろしくお願いいたします。



                     繊細で美しい


紅白の葉牡丹

矜 哀(こうあい)  

親鸞聖人のお作りになられた「正信偈」の中に、「矜哀定散与逆悪(こうあいじょうさんよぎゃくあく)」というご文が、七高僧の第5祖である「善導大師」を讃える中に出てまいります。

「矜哀(こうあい)」とは、「矜」は「あわれむこと」、「哀」は「かなしむこと」で、「深く哀れみ、悲しむ」という意味です。

「定散」とは、「定善」「散善」のことで、「定善」は、心を静めて精神を統一して、阿弥陀仏や浄土を観るという善行です。「散善」は、散り乱れた心のままで悪を廃して善を修める散善行のことです。

「逆悪」とは、「五逆」と「十悪」の罪人のことです。「五逆」とは「①父を殺し、②母を殺し、③羅漢(仏道修行者)を殺し、④仏身より血を出し、⑤和合僧を破る」という罪深い行いです。また「十悪」も「①殺生、②偸盗、③邪淫、④妄語、⑤悪口、⑥両舌、⑦綺語、⑧貪欲、⑨瞋恚、⑩愚痴」といわれる身勝手な行いです。

「逆悪」の人を「矜哀」するのは理解できますが、「定散」の人も「矜哀」するということはどういうことなのでしょうか?

 善人は、自らの善を誇って、私たちを救おうとする仏さまを見失っているのです。悪人は悪にひがんでまた、仏さまを見失っています。
 仏様を見失って不安な状況にあるという点では、善人も悪人も一緒だということです。その善人に、善に誇る心を捨てさせ、悪人に、悪にひがむ心を捨てさせて、善人・悪人ともに阿弥陀如来を仰ぐ道を知らせようとするお経が「仏説観無量寿経」であるというので、親鸞聖人は「矜哀定散与逆悪」と云い現わされたのです。

たとえば、川岸で遊んでいる子供に注意をするときは、「水に近づいたら危ないから、近づかないように、落ちたら溺れるよ。」と言えばよいのです。
しかし、現に今、水に溺れている子供に「それ見たことか。落ちたではないか。注意していたのに。」と、言っている暇があったら、飛び込んで救ってやることが大事です。
 川岸の安全地帯にいるものも救われねばなりませんが、流れに落ちて、今溺れているものに差し出された救いの手が、浄土の教えであるということです。

「花のき村と盗人たち」


日本の児童文学作家の「新美南吉」(にいみ なんきち 1913年 - 1943年)の作品に「花のき村と盗人たち」という作品があります。非常に心あたたまるやさしさのこもった、『観無量寿経』、「矜哀定散与逆悪」の内容が底辺に流れているような作品です。ぜひ手に取って読んでみてください。 

あ ら す じ

花のき村に5人の盗人がやってきました。彼らの「かしら」は以前から盗みを重ねていた本当の盗人であったが、ほかの4人は盗人になりたての者でした。「かしら」は弟子達に村の下見を命じ、土手に座って一服していました。しかし根が善良な弟子たちは、それぞれ大工や鋳掛屋、角兵衛獅子、錠前屋など以前に就いていた職人としてのくせや根性が出てしまうのです。村に入っても金持ちの屋敷の建築の見事さに見入ったり、老人の奏でる笛に聞きほれたり、壊れた釜の修理を請け負ってしまうなど、盗人としてはまるで役に立ちません。

一方、「かしら」の目の前には子牛を連れた少年が現れました。少年は初めて出会うはずの「かしら」に気安く子牛を預けると、そのまま遊びにいってしまいます。盗人として周囲から忌み嫌われていた「かしら」は、初めて人から信用された嬉しさに、思わず涙を流してしまいます。しかし、牛を預けた少年はいつまでたっても帰って来ません。

やがて弟子達が戻ってくると、こんどこそ「盗人根性」にのっとって盗みに入れそうな家を見つけてきたと意気込む弟子達は、「かしら」が連れていた子牛を見て、「俺たちが戻る前に一仕事しましたね」と褒める。しかし「かしら」は子どものことが気になって仕方がありません。さっきまで弟子に説いていた盗人根性のことも忘れ、驚く弟子とともに少年を探しに行くのですが、見つかりません。仕方が無いので、子牛を村役場に届けることにし、村役人もこの盗人たちを信用し、酒などのご馳走をしてくれました。

善良な人々に歓待された盗人は、嬉しさのあまり自分が盗人であることを白状してしまいます。そして弟子たちと、これからは真面目に生きていくことを誓うのでした。牛を預けて消えてしまった少年は、実はお地蔵様であった。というお話です。



淨教寺につどった虫たち パート1
左上:トリバミ           右上:アシナガバチ
左下:カスミカメムシ       右下:ツマグロオオヨコバイ


淨教寺につどった虫たち パート2
左上:アミガサハゴロモ      右上:カスミカメムシ
左下:ツマジロエダシャク     右下:ベッコウバエ