2021年(令和3年) 8月 法話

浄土真宗の世界的建設 



     稲垣 久雄(瑞雄)先生


東京オリンピックが開幕され、連日、日本人の活躍が報道されてうれしいことです。 ここでは金メダルをお贈りするに匹敵するくらいに「浄土真宗の世界的建設」に尽力され令和3年(2021年)6月6日に享年93歳でご往生された故・稲垣久雄(瑞雄)龍谷大学名誉教授をお讃えしたいと思います。



          世界各国からZOOMでお参り


ズーム配信で満中陰
(6月24日(土)午後3時から6時30分)
コロナ禍の中ですので、神戸・法雷会館で行われた先生の満中陰法要にズームでおまいりさせて頂きました。稲垣久雄先生にお世話になった世界の方々が画面を通じてお参りされ一緒に「正信偈」をおつとめいたしました。その後、ヨーロッパ代表スイス、香港、オーストラリア、アメリカ、ハワイ、カナダ、南米ブラジル、日本の方々が先生への御礼のお言葉を母国語、英語、中国語、ポルトガル語、日本語で語られました。天才的な語学力、後進を育てていく指導力・包容力をみなさん讃えられました。 また、海外の方々が口をそろえて語られたことは、先生の作られた「日英仏教語辞典」のすばらしさ、尊さです。「海外でこの辞書を使ってない人はいないでしょう。」この辞典こそが仏教の大切な学びの原点です。」と大変喜ばれていたことです。



           「日英仏教語辞典」


          翻訳「浄土三部経」


稲垣久雄先生 略歴
1929年(昭和4年)稲垣瑞剱先生のご次男として神戸に生まれる。神戸市外国語大学卒業後、龍谷大学大学院を経てブリティッシュ・カウンシル留学生としてロンドン大学で学んだ。やがて同大学から博士号を授与され、12年間ロンドン大学で仏教学の講師を務めるかたわら、ジャック・オースチン氏らと「英国真宗協会」を設立して、ヨーロッパにおける浄土真宗の礎を作った。
1981年帰国後は龍谷大学教授として教鞭を取り多くの学生を育てた。また1982年には「国際真宗学会(IASBS)」を創設し、1993年からはその会長に就任して同学会を文字通り国際的な学術団体として大きく育てた。また1980年創設の「国際仏教文化協会(IABC)」において欧州の念仏者の信仰をサポートし、真宗学会と共に、隔年で学術大会を内外の主要都市で開催している。龍谷大学を定年退職後は、翻訳・研究活動を続けながら、沼田仏教講座客員教授として海外の大学で精力的に講義をおこなった。
龍谷大学仏典翻訳部や本願寺国際センターの仏典の英訳事業に当初から中心メンバーとして参画し、多くの仏典の英訳とその出版に携わった。また個人としても『浄土三部経』や『教行信証』の英訳、仏教用語の和英辞書等を次々に世に出し、多くの内外の研究者に活用されている。



  ご寄贈頂いた「原色 日本の美術」と共に


淨教寺と稲垣久雄先生
先生と淨教寺のご縁は、1950年(昭和25年)にお父様である瑞剱先生が淨教寺でご法話をしてくださったのがご縁の始まりで、淨教寺島田和麿前住職が神戸のご自宅に久雄先生を訪ねてお聴聞を重ねたと聞いております。
その後、1987年(昭和62年)5月30日私と坊守の仏前結婚式の司婚をしていただきました。
翌年1988年(昭和63年)から2009年(平成21年)まで21年間、毎年秋に「法雷講座」としてご法話いただきました。その間1999年(平成11年)から2000年(平成12年)にかけては「浄土マンダラ学習会」と題して、ほぼ毎月、浄土三部経のマンダラについて絵解きのご法話をしていただきました。
2008年(平成20年)11月8日には「住職継職法要」でご法話を頂戴しました。 2010年(平成22年)から2014年(平成26年)まで、ほぼ毎月「真宗講座」のご講師を勤めていただきました。
また、仏法のあじわいを漢詩で表現されて2011年(平成23年)ころから漢詩の会の準備を進められ、2013年(平成25年)5月7日「第1回 仏教漢詩の会 震法雷」を開催されました。
2015年(平成27年)には、本堂屋根葺き替え落慶法要にも海外の方々とご参詣いただきました。
先生ご往生の翌日2021年6月7日が第32回「仏教漢詩の会 震法雷」でした。
思えば、半世紀以上にわたり数多くの仏縁をたまわり、淨教寺寺族、門信徒をお導き頂きありがとうございました。衷心より厚く御礼申し上げます。
お父様、瑞剱先生のおうたに
「雲にいる 鳥みるたびに思うかな 願に乗じて天翔ける日を」とあります。
先にお浄土に還られた瑞剱先生、お兄様弘一先生はじめ法雷有縁の方々と共に全世界を駆け巡って浄土真宗の更なる発展を見護り、お導き頂きますよう念じています。



  朋友のみなさんと   亘 良樹様 (後段 右)


                佛画集


仏教漢詩の会 震法雷    大阪・忠岡町 萬福寺住職 亘 良樹
私は稲垣瑞雄先生に10年ほど前からお育てを頂きました。
私は瑞雄先生が創設された、佛教漢詩の会「震法雷」の事務係をさせて頂いております。そのおかげで私は随分、先生に親しく接して頂きました。真実の世界に導いて下さる先生に出会ったということは、人間として本当に幸せなことだと、しみじみと実感しております。
今、先生が私達に、佛教漢詩を作り学ぶことを積極的に勧められた理由を改めて思い出しています。
 その理由は沢山ありますが、一番大切なことは、
「それぞれが仏法を学び感じたことを表現せよ」
ということなのです。
阿弥陀佛の本願を聞いて他力の信心を獲得することを目的とする浄土真宗においてはこれが大切なのです。
蓮如上人は「ものを言え」と仰いました。それは今自分が仏法において感じていること、理解していることを仲間にさらけ出すことによって、自ずから仏の世界に導かれてゆくからです。
仏教の言葉は難解です。しかしそこには深い佛様の智慧と慈悲がそなわっています。
仏陀の言葉は、我々を正しい方向に導いてくれるのです。
先生が私達に望まれていたのは「知識教養を高めること」でも、「立派な漢詩」を作ることではありませんでした。
それぞれが今の気持ちを素直に表現して、「私の信心はどうか」ということを追求せよということでした。
漢詩でなくても良いのです。
もしも機会があればポエムでも絵画でも俳句でも和歌でも川柳でも音楽でも、何でもよいので、自分の味わいを表現して、親しい佛敎の友人とお互いに語り合って下さい。そして私にも送って頂ければ嬉しいです。
有り難うございました。

次回予定
第33回 仏教漢詩の会 震法雷
令和3年9月3日(金)午後1時30分から4時   場所 淨教寺 瑞翔庵