2022年(令和4年) 7月 法話



        蓮の花 (花ハス)


   あざみにアゲハチョウ(ナミアゲハ)


         ナツツバキ(沙羅)


現世利益和讃(げんぜりやくわさん) 

一般的に現世のご利益というと①無病息災(息災延命)、②商売繁盛、③学業成就、④家内安全、その他ということでしょうか。

「浄土真宗の教章(私の歩む道)」の「生活」の項目には、
「親鸞聖人の教えにみちびかれて、阿弥陀 如来のみ心を聞き、念仏を称えつつ、つねにわが身をふりかえり、慚愧(ざんぎ)と歓喜(かんぎ)のうちに、現世(げんぜ)祈祷(きとう)などにたよることなく、御恩報謝の生活を送る。」とあります。

「現世祈祷などにたよることなく」という文章から、「浄土真宗では現世のご利益(りやく)を期待してはいけないのではないか?」との思いを持たれている方も多いのではないでしょうか。

親鸞聖人の書かれた『浄土和讃』の「現世利益(げんぜりやく)和讃」のはじめに、

阿弥陀 (あみだ)如来(にょらい)来化(らいけ)して  息災(そくさい)延命(えんめい)のためにとて
  『金(こん)光明(こうみょう)』の「寿量品(じゅりょうほん)」  ときおきたまへるみのりなり


【現代語訳】 阿弥陀 如来はインドの王舎城に出現され、衆生を憐れみ教化して、災難をなくし、命を延ばすために、『金光明経』の
       「寿量品」を説き残してくださり、阿弥陀 如来は現世(げんぜ)利益(りやく)を与える如来であることを知らせてくださっている。

山家(さんげ)の伝教(でんきょう)大師(だいし)は  国土(こくど)人民(にんみん)をあはれみて
  七難(しちなん)消滅(しょうめつ)の誦(じゅ)文(もん)には  南無(なも)阿弥陀 仏(あみだぶつ)をとなふべし


【現代語訳】 比叡山で天台宗を開かれた伝教大師最澄(さいちょう)は、嵯峨天皇から、日照り、長雨、疫病、戦争などの困難をとどめる         にはどうしたらよいかと尋ねられたとき、七難消滅の教えとして、南無阿弥陀仏とお名号を称(とな)えるべきだと、称名念仏を        お勧めくだされた。
と、お示しくださいます。

ここで注意しなければならないことは、
①普段、信仰もせずに現世のご利益だけ求めようとしても、それは不可能なことです。
②息災延命・七難消滅の文字はありますが、災害が無くなるわけではありません。災害・災いにあっても阿弥陀如来に護り導かれて、それを乗り越えていく力をもらうのです。
③延命、命を延ばすどころか「無量寿(永遠のいのち)」を恵まれていくのです。
④仏道を歩み、親鸞聖人のみ教えを聴聞し、お念仏申す人生の中に自然と恵まれていくご利益があります。

存(ぞん)覚(かく)上人は『持名鈔(じみょうしょう)』の中で、

『藁(こう)幹(かん)喩(ゆ)経(きょう)』といへる経のなかに、信心をもつて菩提(ぼだい)をもとむれば現世の悉地(しつぢ)(世俗的な利益)も成就すべきことをいふとして、ひとつのたとへを説けることあり。
「たとへばひとありて、種をまきて稲をもとめん。まつたく藁(わら)をのぞまざれども、稲いできぬれば藁おのづから得るがごとし」 と、いへり。


と、喩えを引いておられます。
仏道を歩む(親鸞聖人のみ教えを聞く)ということが「種をまく」ことです。お聴聞によって阿弥陀 如来の本願力でしか救われない凡夫の私が、南無阿弥陀 仏に抱かれて必ず往生成仏させていただくのです。これが「稲が実る」ことです。 

稲穂を刈り取った後、藁(わら)が残ります。藁は、縄になり、草履になり、放牧(ほうぼく)の餌(えさ)になり多くの利益をもたらしてくれます。これは稲穂の付加価値です。藁(わら)を最初から求めたわけではありません。あくまでも稲を求めた付随 的産物です。
本当のご利益というものは、信仰の中から、自然に導き出されるものです。

南無阿弥陀 仏の功徳の大きさを親鸞聖人は『教行信証』の中で元照(がんじょう)律師(りつし)のご文を引用して、

我(わ)が弥陀 (みだ)は名(な)をもって物(もの)を接(せっ)したまう。ここをもって耳(みみ)に聞(き)き口(くち)に誦(じゅ)するに、無辺(むへん)の聖徳(しょうとく)、識(しき)心(しん)に撹入(らんにゅう)す。永(なが)く仏(ぶっ)種(しゅ)となりて、頓(とん)に億劫(おっこう)の重罪(じゅうざい)を除(のぞ)き、無上(むじょう)菩提(ぼだい)を獲(ぎゃく)証(しょう)す。信(まことに)に知(し)りぬ、少善根(しょうぜごん)にあらず、これ多功徳(たくどく)なり、と。

【現代語訳】 阿弥陀 仏は名号をもって衆生を摂め取られるのである。そこで、この名号を耳に聞き、口に称えると、限りない尊い功徳が心に入りこみ、長く成仏の因となって、たちまちはかり知れない長い間つくり続けてきた重い罪が除 かれ、この上ない仏のさとりを得ることができる。まことにこの名号はわずかな功徳ではなく、多くの功徳をそなえていることが知られるのである。

と、讃えられています。本当のご利益をあらためて考えてみてください。



       蜘蛛の糸 (巣)


          ハンゲショウ


           ヤブカンゾウ