2022年(令和4年) 8月 法話



            オ ニ ユ リ


             月 見 草


             セイヨウトラノオ

浄土真宗の現世利益(げんぜりやく) 

親鸞聖人は、阿弥陀如来の南無阿弥陀仏のおいわれ(「われにまかせよ、必ず護り救う」「どうぞお願いだから、わたしの助けさせておくれ」とのよびごえ)を疑いなく素直に受け入れさせていただいた(金剛(こんごう)の真心(しんしん)を獲得(ぎゃくとく))ならば、迷いの世界を超え、この世(現世)にて十種のご利益を得る。とお示しになります。一般的な現世のご利益である①無病息災(息災延命)、②商売繁盛、③学業成就、④家内安全、などの限定的なものではなく、もっともっと大きな我々の想像を超えた大きなご利益です。

稲垣瑞剱先生は、
「仏(ほとけ)を敬い 因果を信じ 親切尽くせば 失敗はなし」
「仏法(ぶっぽう)第一(だいいち) 親に孝行 人には親切」
と、つねに語っておられました。

親鸞聖人は『教行信証』の信巻(末)の冒頭に

獲信の利益(現生(げんしょう)十種(じゅっしゅ)の益(やく))を

「金剛(こんごう)の真心(しんしん)を獲得(ぎゃくとく)すれば、横(おう)に五趣八(ごしゅはち)難(なん)の道を超え、かならず現生に十種の益を獲(う)。なにものか十とする。一つには冥(みょう)衆(しゅう)護持(ごじ)の益(やく)、二つには至(し)徳(とく)具足(ぐそく)の益(やく)、三つには転(てん)悪(なく)成(じょう)善(ぜん)の益、四つには諸仏(しょぶつ)護(ご)念(ねん)の益、五つには諸仏称讃(しょぶつしょうさん)の益、六つには心光(しんこう)常(じょう)護(ご)の益、七つには心(しん)多歓喜(たかんぎ)の益、八つには知(ち)恩(おん)報徳(ほうとく)の益、九つには常(じょ)行(ぎょう)大悲(だいひ)の益、十には正定聚(しょうじょうじゅ)に入(い)る益なり。」と、教えてくださいます。

(現代語訳)
金剛の信心を得たなら、他力によって速やかに、五(ご)悪(あく)趣(しゅ)(地獄、餓鬼、畜生、人間、天)・八(はち)難処(なんしょ)(地獄・餓鬼・畜生・長寿天・辺地・盲聾瘖瘂(もうろういんあ)・世(せ)智(ち)弁(べん)聡(そう)・仏前仏後)という迷いの世界をめぐり続ける世間の道を超え出て、この世において、必ず十種の利益を得させていただくのである。十種とは何かといえば、
一つには、眼に見えない方々にいつも護られるという利益、
二つには、名号にこめられたこの上ない尊い徳が身にそなわるという利益、
三つには、罪悪が転じて善となるという利益、
四つには、仏がたに護られるという利益、
五つには、仏がたにほめたたえられるという利益、
六つには、阿弥陀仏の光明に摂め取られて常に護られるという利益、
七つには、心によろこびが多いという利益、
八つには、如来の恩を知りその徳に報謝するという利益、
九つには、常に如来の大いなる慈悲を広めるという利益、
十には、正定聚(しょうじょうじゅ)(仏になることの定まった位)に入るという利益である。


親鸞聖人はこの慶びを和讃に
「南無阿弥陀仏をとなうれば 梵(ぼん)王(おう)帝釈(たいしゃく)帰(き)敬(きょう)す 諸天(しょてん)善(ぜん)神(じん)ことごとく よるひるつねにまもるなり」(現世利益和讃)
現代語訳:"梵天・帝釈天等の天地の神々が、弥陀に救い摂られた人を敬い、昼夜を分かたず護って下さる"

「南無阿弥陀仏をとなうれば 十方無量の諸仏は 百重(ひゃくじゅう)千重(せんじゅう)囲繞(いにょう)して よろこびまもりたまうなり」(現世利益和讃)
十方無量の諸仏方が一重や二重ではない、百重千重にも取り囲んでよろこび護って下さると、教えられています。

また、諸神・諸菩薩の本師本仏である阿弥陀如来そのものから護られ、南無阿弥陀仏の大功徳を頂戴するのであるとお慶びです。

熱心な真宗門徒を代表する近江上人の伊藤忠(いとうちゅう)兵衛(べえ)(現在・伊藤忠商事)は「商売は菩薩(ぼさつ)の業(わざ)、商売道の尊さは売り買い何れも益(えき)し、世の不足をうずめ、御仏(みほとけ)の心にかなうもの」と説き、店を発展させていったそうです。

商売繁盛を祈るのではなく、仏教の因果の道理(善因善果・悪因悪果)にしたがって、「三方(さんぽう)よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)の精神を大切にしながら、常に「仏を敬い 因果を信じ 親切尽くせば 失敗はなし」をこころがけて、歩んでいかれる中に商売発展の原点があったようです。

「人生は苦なり」といわれ、思い通りに行くことばかりではありませんが、それも現生十種のご利益の見護りの中に、乗り越えていく力をいただいていくのです。それこそが親鸞聖人の教えてくださった現世利益でしょう。





            ソテツの雄花


          サフランモドキ


              ス イ レ ン