法のたより 2004年 7月号


仏教と道徳

6月20日(日)午後2時 定例法座 住職 挨拶より

今年は丁度、聖徳太子が「十七条憲法」を発布されまして1400年目になります。今年一年みなさまとともに聖徳太子の事を念頭において、出来るだけ学び、お徳をお讃えしたいと思います。
淨教寺の本堂正面阿弥陀如来さまに向かって左側は聖徳太子をご安置いたしております。親鸞聖人ほど聖徳太子を偲ばれ、御讃嘆された方はございません。そして、太子信仰というものが盛り上がったのも親鸞聖人のおかげでありましょう。
丁度、時代もややこしくなってまいりまして、この時こそ、日本の精神のバックボーンとして仏教の理念を取り入れた「十七条憲法」のご恩を再確認いたしたいと思います。親鸞聖人は和国の教主(日本の釈尊)と仰いで、常にご偉徳を念じておられました。親鸞聖人の時代、各地に太子堂がございまして、聖徳太子を御安置してあったようでございます。そこで御説法を続けていかれました。
そういうことを念頭において過ごしておりますと、6月15日の朝日新聞に今の日本の現状を憂いて梅原猛さんが「民主主義道徳の創造」ということで書いておられました。21世紀に入りまして私たち浄土真宗の門信徒がしっかりと精神の中心を見定めていっていただきたいと思います。現代に対応すべく、問題点をあげられまして梅原さんは書いておられます。すこし紹介いたしますと、
 「戦後60年間、日本人は大変重要なことをおろそかにしていたように思われる。それは平和憲法と対をなす新しい道徳を創造することである。」こういう書き出しで始まっております。そして、
 「日本人は自らの手によって教育勅語に代わるべき新しい道徳を作るべきだったと思うが、政府はそのような意思をまったく示さず、フランスのルソーやドイツのカントのように自国の伝統にもとづく民主主義を創造しようと試みる個人も出現しなかった。それゆえに道徳は家庭でも学校でも教えられず、道徳なき人間が育っている。そのような人間のなかから、理由なく人を殺す子どもや、汚職や詐欺などの恥ずべき犯罪を行う大人が出る。」このような警鐘をなさっておられます。また、
 「このような新しい道徳を作るには、仏教を中心に儒教や神道をも総合して「十七条憲法」を作った聖徳太子の例が参考になろう。仏教は平和と平等を思想の根本におく教説であり、民主主義に甚だふさわしい教えであると思う。明治政府は仏教を徹底的に公教育から排除したが、この仏教の道徳を教育の現場において復興しなければならない。道徳には、戒律すなわち、してはいけないことと、徳すなわち、すべきことの両面がある。仏教では五戒、十戒などといって、すべきではないことを厳しく教えるが、結局、二つの戒律がいちばん重要であると思う。一つは、生きとし生けるものを殺してはいけないという戒である。(中略)二つめは、嘘をついてはいけないという戒である。(中略)このような嘘をついてはいけないという戒とともに正直あるいわ誠実の徳が教えられるべきであろう。」と、梅原さんはこんなふうに真正面から仏教の本質を知って、仏教を根底に置いた道徳を日本に復興すべきだということをおっしゃっています。やはり一番に聖徳太子のことを念じておっしゃっておられることがうかがわれます。
自分のみならず、家庭の後継者に宗教、道徳というものをよくわきまえ、学びとってもらうことが肝要です。そして、子や孫にそれを伝えるという努力を費やしていただきたいとお願いいたします。大いにものの時代からこころの時代に変わろうとしているこういう時に私たち仏教徒がしっかりと歩みをそろえて立派な国の建設に邁進していきたいと思います。