奈良 淨教寺

2025年(令和7年)9月の法話

のりのたより〔273〕

ネパール・カトマンズ本願寺住職 ソナム師 

 ソナム・ワンディ・ブティアさんは、1973年北インド、シッキムというところで生まれ、チベット僧侶として厳しい修行をされた方です。向坊弘道という方とお釈迦さまお悟りの地ブッダガヤで出遇われ浄土真宗の道に入られました。

 今から23年前の平成14年(2002年)来日し、宗派留学生として中央仏教学院で浄土真宗を学んでいかれました。その時、淨教寺子ども会にも何度か来てシンガポールの王仁興君や台湾の瑞覚さん、香港の陳さんなどと共に子ども達に英語の歌などを教えてくださいました。(写真)
 平成16年(2004年)に浄土真宗本願寺派の僧侶・教師、開教使資格を取得されました。その間にネパール・カトマンズに寺院建立の計画が立てられ、建設が始められました。この時、淨教寺からインド・ネパール仏跡巡拝の旅でカトマンズのソナムさんを訪ねて建設支援金をお渡しすることが出来ました。(写真)
 「カトマンズ本願寺」はその後10年の歳月をかけて平成26年(2014年)本堂が完成し、平成28年(2016年)3月6日盛大に西本願寺、即如ご門主ご親修にて落慶慶讃法要が厳修されました。
 来年(2026年・令和8年)2月に荒井敦子先生とルンビニ、カトマンズの子ども達と歌の交流、支援の旅に行きます。その際にカトマンズ本願寺を訪問し、ソナムさんとも久しぶりにお会いしてお話を聞かせていただくことを楽しみにしておりました。
 荒井先生は昨年(2024年・令和7年)10月、私どもと「インド・ナグプール、佐々井秀嶺上人・仏教徒への大改宗式典」参列の旅の後、ネパールの視察に行かれた折にソナムさんと面会され(写真)今までのご苦労や、現状のご報告を聞いてこられました。
 今年の8月も再度、下見に行くためにソナムさんと連絡を取っていましたが、体調不良との事でお会いできず、心配していましたが、この度8月23日にご往生されたとの訃報が入り驚いているところです。将来は仏教の聖地ブッダガヤにも本願寺のお寺を建立したいとの願いもむなしく52歳の若さで、まだまだこれからの活躍が期待されていただけに残念でなりません。

故 ソナム住職 2025年8月23日寂
2002年 12月14日  淨教寺子ども会にて
2004年2月 カトマンズにて支援金伝達
2003年6月28日  淨教寺子ども会にて

*ソナムさんの転機 
 ソナムさんは、16歳でチベット仏教の一連の修行を終えた後、3年3ヶ月3週3日間、山に籠もる大変厳しい仏道修行に入り、最後までやり遂げ「ドゥプラ」という菩薩に匹敵する僧位をいただかれました。
そうなると周りはソナムさんを雲の上の存在として崇められます。自由に外を出歩くことも、以前のような生活ができなくなり、とっても人生が難しくなりだしたそうです。まわりは「立派な人」として見ますが、当の本人はそのことにとても悩まれたそうです。
 そんなとき、インドのブッダガヤで、向坊弘道という方に会われたのです。向坊先生は交通事故で半身不随という障害をお持ちでした。ソナムさんは目の前に障害をもった人がおられるのを見て、「不幸な人がいるのだな」と思って、「仏さまを信じて、助けを求めなさい」と説くと、向坊先生は、「わたしは光に包まれていて、とても幸せです(阿弥陀仏の救いに抱かれています)」と答えられたそうです。ソナムさんは「この人はウソをついている」と思い、体の不自由な方が「わたしは幸せだ」と言われることに抵抗を覚えたそうです。
 最初の2年くらい、ソナムさんは疑いの眼差しで先生を見ておられたそうです。「まちがった仏教理解をしている」と思って、それを正そうとされました。
 その頃ソナムさんは、厳しい修行を終えても、そのあとにやってくる煩悩に悩まされ、最初は清らかな心持ちですが、時間が経つといろいろと悩みがでてきてしまう。料理でいえば、味はいいのだけれども、コクを与えるダシがなかったような、そんな感覚だったそうです。
そんな中、先生とメールを交わすうちに、先生が自分の悩みに応えて下さり、それまでの厳しい修行とはまったく違った世界が開けたそうです。
 以下のようにソナムさんは浄土真宗に出遇えた慶びを語っています。
 「浄土真宗は、「本願力」という仏様に身を任せるという、誰にでも実践できる教えで、厳しい修行は必要ありません。ただ大切なのは、本願力の成り立ちをしっかり理解し、熟知することです(聴聞)。そうすれば料理のダシは完成です(信心獲得)。このダシはどこに入れてもどんな料理にも合います。場所や時間を問わず普遍的なものなのです(称名報恩)。」
 私たちも、人間に生まれさせていただいたこと、そして仏法に出遇えたことをよろこばせていただき、一層、浄土真宗のみ教えをお聴聞して、このよろこびをご縁のある方々にお伝えしてまいりましょう。

2024年10月 カトマンズ本願寺にソナム住職と荒井先生
2003年頃 西本願寺にて 向坊先生とソナムさん
エノキの近くでタマムシに出会えました