法のたより〔287〕
相 続 (そうぞく)
先日ご縁のあるお寺の前坊守様のお通夜に伺った。
ご法話の中で「お念仏を大切に、日々聴聞され、ナンマンダブツ。ナンマンダブツとお念仏の絶えない日暮でした。そのお念仏をご相続されることこそ大事なことです。」との、お話がありました。
みなさんは「相続」と言うと、まず頭に浮かぶ事は遺産相続、お金や土地を相続する事でしょうか?それも大事なことですが、
親鸞聖人は『教行信証』というお書物の最後に以下の言葉を引用されます。
「前(さき)に生まれん者は後(のち)を導き、後(のち)に生まれん者は前(さき)を訪(とぶら)へ、連続(れんぞく)無窮(むぐう)にして、願わくは休止(くし)せざらしめんと欲す。無辺の生(しょう)死海(じかい)を尽さんがためのゆえなり。」と。このお言葉は道綽禅師の著書『安楽集(あんらくしゅう)』にあるものです。
先に生まれたものは、お念仏のご縁を大事に、自らよろこび、そのよろこびを、お念仏を申す姿として見せて、後世に残す。後のものは、先人の足跡を大事にお聴聞しながらお念仏を申す。その営みこそが相続である。
そして阿弥陀如来の本願力に救われ、迷いの世界を流転輪廻する事なく、悟りの世界に赴いて欲しい。その為にこの書物『教行信証』を書き記したのである。とのお気持ちが汲み取れます。
その思いを受け止め、お念仏に出遇っていただくことが何にも勝る、尊い「相続」の意味であり、その事を親鸞聖人は願われたのです。
そのお手本として近江商人の姿があります。
伊藤忠商事の創業者、伊藤忠兵衛(1842~1903)は
「商売は菩薩(ぼさつ)の業(わざ)(行(ぎょう))、商売道の尊さは、売り買い何れをも益(えき)し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」の言葉を座右の銘として残しています。
「商売とは、仏教における菩薩の業(行い)、すなわち、世のため人のために尽くす(利他(りた)行(ぎょう))修行者と同じ事である。商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売であり、それこそが仏様の慈悲の心にかなうものである」という考え方が示されてあります。
それは伊藤忠兵衛の浄土真宗の深い信仰にあります。店では従業員にお経本や念珠を配り、毎日仏壇で読経を行い、法話会も開催していました 。この宗教的背景が、商売を菩薩の行いとして捉える倫理観の基盤となっています。つまり、商売は社会貢献であり、仏の教えに沿った行為であると位置づけられました。
それが近江商人の経営理念を表現するものとして『売り手よし、買い手よし、世間よし』の『三方(さんぽう)よし』という表現で後世に伝えられました。
価値ある物を売って喜んでもらう。信頼できる物を買って満足する。商売で得た利益を世間に還元する。その中心には浄土真宗のお念仏の教えがありました。
私たちも、一人ひとり、「先人から何を相続し、後の者に何を残していくことが大切で、何が出来るのか?」考える機会にしていただければと思います。